筑波大学附属久里浜特別支援学校 Special Needs Education School for Children with Autism,University of Tsukuba

「今日は、何回着替えたの?」~幼稚部教員との会話~

 6月16日 「今日は、何回着替えたの?」~幼稚部教員との会話~
 「今日は、何回着替えたの?」と私が聞くと「3回です。」との応えが返ってきた。驚いて「毎日、そんなに?」と聞くと、「2回だと少ない方ですね。」と少し照れながら教えてくれた。この話、子供の着替えの話ではない。幼稚部の女性教員との会話である。まかり間違うとセクハラになりかねないが、背景があるのでご安心いただきたい。

 今日、幼稚部に行くと、ひよこ組(3歳児クラス)のH君が目ざとく私を見つけた。数日前に出会ったとき、「せんせい、せんせい。」と言ってしばらく離してくれなかった。担任と違って「せんせい。」と言われる機会の少ない私は、すっかり嬉しくなり、H君のなすがままに付き合った。H君は、それを覚えていたようで、隣に一緒に座れとせがむので、少し付き合うことにした。

 教員が通りかかると、指さして「せんせい。」と言う。覚えてきた言葉を使うことが楽しいようだ。隣で、「○○せんせいだね。」と言うと、コクンと頷く。まだ、こちらが言ったことを繰り返すのは難しいようだ。きっと、言葉の泉に溜め込んでいることだろう。しばらくして、次のことに誘うことにした。

 H君と一緒にプレイルームを歩くと、プレイルームのすぐ外でN先生とひよこ組、りす組(4歳児クラス)の各一人が色水で遊んでいた。水の入ったタライに絵の具をたらしたり、自分の体に絵の具を塗りつけたりしていた。H君に「一緒にやろうか。」と誘ってみたが、手を振って「やだ」と言う。「楽しそうだよ。」と重ねて誘うと後ずさりしてしまった。

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 これは無理かと思い、ガラス越しに座って見ていることにした。するとN先生がガラスの向こう側にやってきて「おいで。」と誘った。だがH君は、手を振って「やだ」を繰り返す。N先生は、手に黄色い絵の具を塗り、ガラスに手形を付けた。一つ、また一つと手形を押した。H君はその様子を見て、ガラスの黄色い手形にそっと自分の手を添えた。教員を見て、あの人も「せんせい。」、この人も「せんせい。」というH君である。N先生の手と自分の手が同じだと気づいたのだろう。次にN先生は、ガラスに指先でニコニコマークを描いた。H君は目を見張った。H君に驚きが見てとれた。だが、外に行く様子はついに見られなかった。ガラス越しではあるが、外の色水活動に興味を持ったことで、今日は「良し」とした。

 N先生は、朝から、水遊び、色水遊びをして着替えることになった。そうした着替えを3回したというのが冒頭のやりとりだ。N先生は、これまで中学や高校段階の生徒を担当して、今年、本校に赴任して幼児を担当することになった。思ったことを素直に表す幼児である。彼らに好かれなければ教育は始まらない。まずは、幼児と徹底的に付き合うところから始めるほかない。やってみたいという思いのあったN先生も、1か月程度は戸惑い、不安も大きかったようだ。校長としては心配もしたが、今日、N先生が幼児と屈託なく遊ぶ様子を見て、また、何度も着替えていると明るく応える様子に接して安心した。同時に、久里浜の先生がまた一人増えたと、という思いが湧き上がってきた。