筑波大学附属久里浜特別支援学校 Special Needs Education School for Children with Autism,University of Tsukuba

余計なお世話~小さな虫とり名人との出来事~

 5月22日 余計なお世話~小さな虫とり名人との出来事~

 朝,登校する K君とお母さんが目に止まった。幼稚部玄関に向かっているようだ。私は100mほど離れたところにいた。お母さんの手には,片手に一つずつ虫かごがある。また,何か小動物を持ってきてくれたなと思って,見ていると,ふいにK君がしゃがみこんだ。そして,すぐに立ち上がると,左手の親指と人差し指を輪っかにしている。

 何か捕まえたようなので,近付いてみる。お母さんが,バッタだと教えてくれた。K君の左手の親指と人差し指には体調数mmの小さな小さなバッタがいた。K君は絶妙な力加減でバッタを潰さないようにつまんでいる。

 K君親子が玄関に到着した。迎えた先生は,まず虫かごに目が向く。虫かごには一匹ずつカニが入っている。甲羅が5cmくらいのカニとそれよりやや小さなカニ。K君と同じクラスのIさんがたまたま玄関にやってきて,カゴの中のカニを見つけた。すると小さい方を指さし「赤ちゃんだ」と言う。そして大きい方はお母さんだと,喜んで話してくれた。

 K君のお母さん曰く,昨日,家の池にいたので捕まえて,持ってきてくれたのだそうだ。子供たちは生き物が大好きである。水槽やカゴの中の生き物を,しばらく見ていて飽きない。そして,そこで気づいたことを表そうとする。指差しで,発声で,絵で,そして言葉で。学校にやってくる小さな生き物たちは,子供たちの成長に必要な,たくさんの発見や驚きを与えてくれる。

 ところで,玄関まで来たK君,自分の捕まえたバッタが注目されず残念そうだったが,ようやくバッタの話題になり明るい表情になる。左手でつまんだり,右手でつまんだりしながら逃がさないようにしている。つまんでいる指からバッタを見せようとすると,もう指からはずれてしまい,もう片方の指ですぐさまつままないことには逃げ出してしまいそうだ。それ程,小さいバッタである。つまみ方はとても上手で,絶妙の力加減なのだとお母さんが話してくれた。

 さて,靴の履き替えをどうするか。K君は左手にバッタをつまんだまま床に座り,足をこすり合わせて靴を脱ぎ,右手だけで片方は履くことができた。だが,もう片方が脱げない。しばらく試みたがだめだった。そこで,先生に「手伝って」と訴える。先生もここはしようがないと思ってか手伝った。

 無事靴の脱ぎ履きが終了して,K君は教室に向かった。そこで,私はふと思った。これから着替えなどをするとき,バッタを保持していられないのではないか。ここは,記念として写真に撮っておくといいだろう。そう思いカメラを取りに行ってきた。

 我ながらいいアイディアだと思った。カメラを取ってきて,K君に出会ったところで,「K君,バッタを写真に撮ろう」と提案した。K君もその気になって,バッタを持っていた手を差し出した。そして,バッタを見せようと広げた瞬間,バッタはK君の手を離れてしまった。すぐさまK君も私も床を探したが見つからなかった。K君は,表情を崩し,とうとう泣き出してしまった。「K君ごめんね。」と謝るが,泣き声は大きくなる一方。困っていると,担任のI先生が,「K君,着替えてからなかよし広場に探しに行こうよ。」と助け舟を出してくれた。そこで,K君は,ようやく教室に向かう歩みを再開した。ほっと胸を撫で下ろす私であった。