筑波大学附属久里浜特別支援学校 Special Needs Education School for Children with Autism,University of Tsukuba

思いを形に その1~虫捕り~

 今夏は、本校内に生息又は飛来する昆虫たちにとって受難の季節である。これまで本校敷地内は、安全地帯であったが、今夏は事情が違う。

 ことの始まりは、夏休み前。先生たちが虫を捕まえてきては子どもたちに見せたり、這わせて様子を観察したりしていた。この頃リス組のH君は、先生たちが捕まえてきたコガネムシに触れず尻込みしていたそうである。だが、尻込みしながらも目は輝かせていたのだそうである。そのうちに、関心を持って近づいてくる。教員の手のひらにいるコガネムシを何とか自分の持つ虫かごに入れてもらおうと、あれやこれや試していたのだそうである。そんな時期を経て、いつからか彼は、朝、登校すると決まって男性のT先生やM先生に虫捕りをせがむようになった。忙しくて相手をしてくれないと見ると、リス組の女性の先生たちに一緒に行ってくれるようお願い行脚をして回ったということである。彼の虫捕りへの関心は夏休みにも続き、休み中に通ったディサービスでも、蝶をとったり、トンボを捕まえたりして喜んでいたと絵日記に書かれていた。

 明けて2学期。H君が虫かごを胸の前にぶら下げて網を持っている姿を、私もよく目にするようになった。そして、昨日、朝の挨拶のためにリス組の教室に入ると、H君に捕まってしまった。S先生が「H君、校長先生と虫捕りに行ったらいいんじゃない」とけしかける。何やら、まずい展開になりそうだと感じたが、言葉の出始めてきたH君に「行こう、む・し、行こう」と言われてはたまらない。

これは致し方ないと思い、H君と教室の出入り口から外に出る。そこには、既に2本の網が用意されていた。虫かごはH君の胸に二つもぶら下がっている。いざ、虫捕りに出陣。一時は、H君の思いが、実現に向かうことになったのである。

 外に出ると早速、H君が、パタパタと小刻みに羽ばたく蝶を発見。と思いきや蛾だった。蛾を捕まえるのはまずいと思い、私は捕獲には参加せずに見守ることにした。H君は、えいっとばかりに何度か網をかぶせたが、残念ながら蛾は飛び去ってしまった。

 次を探すが、今度は、なかなか見つからない。しばらく探し回った。すると、我々の前を横切る物体を発見。草むらに入ったところで網をかぶせ、「H君バッタだ」と言うと、彼はすぐに駆け寄り、慎重に網を抑えて開けてみる。が、何もいなかった。彼の残念そうな顔といったらない。10分程、探したがこの日は収穫なしということで、H君も諦めたようだ。思いは、実を結ばなかったのである。

 そして、今日。プレイルームに入ると、意気揚々とH君が私の方に向かってくる。胸には二つの虫かごがぶら下がっている。しかも、その中には、虫が数匹入っている。隣に教育実習生がいる。彼女いわく、「今朝10分位の間に、H君と捕まえたんです」とのこと。

mushitori.pngするとH君、その場に座って、虫かごに手をつっこみ、虫の選別をはじめる。虫に触れず尻込みしていたのは、過去のこと。ある種類の虫をもう一方の虫かごに移し始めた。手慣れたものである。移されたのはバッタである。残された虫の名前は分からない。H君は満足気にバッタの入った虫かごを見つめている。興味津々といった表情である


 H君の思いが実を結んだ。虫を怖がらない実習生女子に感謝である。