筑波大学附属久里浜特別支援学校 Special Needs Education School for Children with Autism,University of Tsukuba

個性きらめく その1~M君の作品作りを通して~

 今日、6年生のM君が、刺繍でコースターづくりをする学習場面を見た。刺繍と言っても、布の目を一つ置きにすくう簡単なものであるが、M君はそれを正確に行い、糸のたるみも自分でのばした。何をすべきか分かり、主体的にやっているという印象であった。

 予め針に糸が通してあり、今日の分として10本用意されている。M君はそれを取って一列刺繍をすると、和ばさみで糸を切り、針を穴の開いた収納ボックスに入れる。これで一工程が終わる。これを今日は10回行って、まだ時間に余裕があったため、2本程追加した。これには、担任のS先生も大いに喜び、M君はたいそう褒められていた。
 
 2年前、4年生だったM君の印象は、俗にいう手の掛かる子であった。何かと目を離すことができない、一人にすると行方不明になってしまう。気にいらないことがあると、大声を出し先生を困らせる、そんな状態がしばしば見られた。

 だが、ある日の図工の授業を見てまるで異なる印象をもった。ちぎり絵をやっていたと思うが、そのとき彼が見せた集中力に目を見張った。これほど集中できるものがあるのか、これを使わない手はないなと思い、担任の先生とそんな話をしてきた。

 自閉症の子どもは視覚的な支援が大事だと言われる。確かにM君のように、見ることによって課題内容を理解し落ち着いて取り組める子どもが多い。音声言語だけの指示や一時的に見せるだけでは難しくても、写真やイラストで示されると何度でも確認できる。これが安心感を生むようである。だが、それだけではない。M君の今日の刺繍のように、活動の流れが一つずつ区切られ終わりをはっきりさせるような学習方法の工夫も大切なのである。糸を通した針を10本用意し、収納ボックスがあることにより、彼は自分で活動の主人公になれるのである。

 何よりも彼はこうした活動が好きである。寄宿舎に帰ってからも、彼は何か作っていることが多い。折り紙も好きである。ある時、指導員が金魚の作り方を教えると、彼は熱心にその作り方を覚え一人で折れるようになった。それからは、来る日も来る日も金魚作りに熱中した。たくさんになった○○は、寄宿舎の夏の廊下に貼り出されることになった。

 夏の間、寄宿舎を訪れる人たちは、彼の個性的な金魚を見て、いろいろな思いを抱いたであろう。「面白い」「一つ一つ表情がある」「この金魚が好き」、彼の表現は、訪れた人の心に届いたことであろう。M君は作品を通して、人とのかかわりも豊かにしてきたと言えるだろう。
 
 好きな物作りを通してM君の生活は落ち着いてきたようである。