筑波大学附属久里浜特別支援学校 Special Needs Education School for Children with Autism,University of Tsukuba

相手に合わせるということ ~J君の個別の学習~

 3年生のJ君の朝の挨拶には、独特な形がある。

 下を向いて私の方に歩いてくる。私の方に歩いてくるというか、彼の進路に私がいるといった方が正確だろう。私がいると真っすぐ進めない彼は、いったん右側に行こうとするが、そこは壁なので、私の前をすり抜けて教室に向かおうとする。その過程で、私が「おはよう」と言いつつ顔を合わせると、彼は独特なイントネーションで「おはよう」と返す。彼流なのだと思い、毎日こんなやりとりを続けている。つまり、私が彼に合わせているのである。

 そんなJ君の個別の学習をのぞいてみた。多様な形の三角形のマッチングをするという学習をしていた。正三角形、二等辺三角形、直角三角形、その他の三角形を教師側に置いた見本と、J君側に置かれた選択肢から選ぶという内容である。だが、直接に教師側の見本に選択肢を合わせていくのではなく、いったんS先生が指さした三角形をJ君も指さして、同じであることを指さしで確認してから合わせていた。S先生の意図としては、指さすという行為によって、直接形を合わせなくても、目で見て同じであることが分かることと、教師からの提案に応じることを求めていたようである。つまり、J君は教師のやり方に合わせていたのである。

 次の学習は、3種類の様々な写真やイラストを分類するというものであった。「自転車」「はさみ」「鍵」のいろいろを分類するのであるが、1枚ずつ写真やイラストが違う。先生が示したそれらについて、J君はいちいち「じてんしゃ」「はさみ」「かぎ」と言って分けていく。ときに言わずに分類すると、S先生は「なに?」と聞いて発語させていた。何枚か分類を進めていくうち、「はさみ」のイラストを、発語しないままに「鍵」のところに分類しようとした。すかさずS先生が「なに?」と聞くと、J君は、イラストをじっと見て「はさみ」と言い、「鍵」に入れようとした手をとめ「はさみ」のところに分類することができた。ここにきて、私はS先生の意図を理解できたような気がした。

 指さすことも話すことも、それはいったん具体的な物を頭の中に取り込むことになる。具体物の状態では異なる二つのもの(三角形Aと三角形B、はさみAとはさみB)は、頭の中に取り込まれることにより「ある特徴のある三角形」「はさみとしての共通性」に着目され「同じ」と認識される。この過程で「ことば」が大きな役割を果たす。S先生は、こうした学習をしてほしかったようである。

 朝の挨拶では自分流を通すJ君であるが、学習場面では相手に合わせることにより大切なことを学んでいるようである。相手に合わせる力がついて、いつの日か向かい合って「おはよう」と言えることを期待したい。