筑波大学附属久里浜特別支援学校 Special Needs Education School for Children with Autism,University of Tsukuba

二往復目の会話

 校長は検食を行う。子どもたちより一足先にその日の給食を食べ、食べ物に異常はないか、味や量は適切かといったことを調べる。本校の給食はおいしいので、仕事ながら楽しみの一つとなっている。

 検食は子供たちより先に食べなければならないわけであるから、校長室で一人いただく。そして食べた後は、容器をランチルームに返しにいくことになっている。
 今日もおいしい昼食をいただき、良い気分でランチルームに向かって渡り廊下を歩いていると、早々と給食を終えた6年生が1列に並んで歩いてきた。私から「こんにちは」と声をかける。6年生から元気な声が「こんにちは」と返ってきた。列の中にN君がいた。

 すれ違おうとしたとき、N君が「校長先生」と呼びかけてくれた。N君は、毎朝、玄関で「校長先生おはようございます。」と元気に挨拶をしてくれる。だが、次に何かを問いかけても立ち去ろうとする。何か聞きたいときには、N君の手を握って立ち止まってもらう。内容的に答えられないことはないのであるが、N君は戸惑いそのまま立ち去ろうとしたり担任の先生に促されて答えたりする。

 そのN君の方から呼びかけられたことに驚き、「はい」と言って立ち止まった私。N君も立ち止まった。私は次に続く言葉を待った。こうした突然生じた会話場面で、なかなか自分から言葉が出てこないのが本校の子どもの特徴でもある。ちょっと間ができた。これ以上はN君もつらいだろうなと思って、「給食、食べましたか?」と聞く。N君は答えずに教室の方に歩き始めた。呼びかけてくれただけでも「良し」としようと思い、私も反対側に足を踏み出そうとした瞬間、N君が後ろ向きながら手を挙げ、陽気な声で「はい」と答えてくれた。

 会話というやりとりは一往復から始まる。呼びかけに応えて一往復、私の質問に彼が答えて二往復。一往復目の挨拶や呼びかけに答えることは習慣化している。二往復目が難しい。そこには新しい事態への対応が必要である。だから、二往復目が大事なのである。それをできたことがうれしい。