筑波大学附属久里浜特別支援学校 Special Needs Education School for Children with Autism,University of Tsukuba

イヤーマフを付けたちびっ子力士、土俵に上がる~大相撲横須賀場所にて~

 4月12日、本校の子供たち40名程が大相撲横須賀場所の「ちびっ子わんぱく相撲」に参加した。日本相撲協会の春巡業に招待を受けたものである。回しを付けて土俵に上がった子供、回しは付けなかったがお相撲さんと触れ合った子供、土俵下や2階席から友だちの頑張りに声援を送った子供など、参加の仕方は違っても一人一人にとって心に残る体験になったことと思う。

 本校の子供たちの中には、新しい場所や馴染みのない人が苦手な子供が少なくない。会場に着き、着替えの部屋に入ろうとしたところ、中に入れない幼児が何人もいた。廊下で遊んだり、中の様子を覗き見たりするうちに、少しずつ中に入れるようになった。小学部の子供になると、さすがにそうした状態はなかったが、緊張感の見られる子供や逆に興奮気味の子供が目立った。こんなスタートだったので、子供たちが土俵に上がれるだろうか、混乱して泣き出したりしないだろうかと心配になった

 だが、そうしたことは杞憂であった。「ちびっ子わんぱく相撲」の直前、花道の入り口で待機する場面があったが、この場面で静かに待つことができた。アリーナには既に多くのお客さんが入っており中央では力士の稽古が行われている。たくさんの情報が交錯しているような状況であり、なおかつ時間の目処が立たない。大きな声を出したり動き回ったりしたら、たくさんのお客さんに迷惑をかける状況であった。日頃とは異なる状況であったが、子供たちはどう振る舞ったらよいか感じ取っているようであった。

 いよいよ「ちびっ子相撲」が始まった。土俵下で、稽古をつけてくれるお相撲さんと向かい合い「よろしくお願いします」と挨拶。小さい子供から1、2名ずつ土俵に上がる。A君は、お相撲さんに向かっていき、大きなお腹を土俵際まで押した。そこで立ち止まってしまったが、後ろで見守っていたお相撲さんがA君の手をとって一緒に押してくれた。相手のお相撲さんは大げさに倒れて見せる。その様子を見て、見ているお客さんが拍手してくれた。A君も、そこで終わりだということが分かったようだ。

 B君とC君は、土俵に上がったもののお相撲さんに向かっていかず立ち止まった。すると土俵を取り囲んでいた別のお相撲さんが、B君とC君の後ろに近づいた。近付くお相撲さんに押されるようにB君、C君は前に進んだ。お相撲さんの前まで行くと、B君はお相撲さんの大きなお腹をチョンチョンとつついた。その仕草が面白かったようで、会場の笑いを誘った。後ろのお相撲さんが、さらに接近する。B君とC君は、相手のお相撲さんを押す格好になり、そのまま押し出した。子供たちの様子に合わせてお相撲さんたちがさりげない支援してくれた。

 国技相撲であるから、守らなければならないことも多々ある。D君は服の上から回しを付けることを認めてもらった。D君は大きな集団の行事に参加することが難しかったが、少しずつできるようになっていた。だがこのイベントは、始業式から3日目である。学校での事前指導では、行事役に興味を示していたが、本番は難しいだろうと想像していた。今日、自分から回しをつけたD君は進んで土俵に上がり、相手のお相撲さんを何度も押して、土俵際で力を込めて押し出した。お相撲さんは大袈裟に転んでくれた。D君は、笑顔で、「ありがとう」の礼を自分からした。

 本校には、音の情報に過敏な子供がおり、自分がつらいところでは耳を塞いだり、イヤーマフ(耳全体を覆うタイプの防音保護具)を付けたりする。写真は、イヤーマフを付けて土俵に上がったE君である。イヤーマフで音の情報をコントロールはしているが、しっかりと押している状況が見てとれよう。彼は、イヤーマフがなければ両手で耳を押さえていたことだろう。両手が開放されたことによって相撲を体験することができた。お相撲さんの大きなお腹、そのやわらかさ、土俵の感触等、いろいろなことを経験することができた。本人の求めることに御理解をいただいたことに感謝したい。

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 初めての環境、大人でも圧倒されそうな雰囲気の中で、子供たちは持てる力を発揮できたように思う。そうした子供たちの行動には、次のような背景があった。きっかけは、大学時代相撲経験のあるN寄宿舎指導員を中心に、寄宿舎で相撲の取組を始めたことであった。この4年間、年に1回行う「おまつり」で相撲に取り組んできた。現役のお相撲さんを招いたこともあった。最初は、向き合うことさえできなかった子供たちが、最近は組んで押し合うようになってきた。昨年は、幼稚部が例年行う餅つきに、力持ちのお相撲さんに来てもらい、餅つきとともに相撲遊びを展開した。こうしたことが子供たちの経験として積み重なり今日の姿につながってきたのだろう。今回の招待が実現したのも、こうした子供の様子を見てきた教師が、横須賀場所のあることを知り、なんとか子供たちを連れていきたいと思い、巡業関係者に申し出て実現したものである。

 本物の人たち(お相撲さん)と本物の環境(土俵やアリーナや大勢の観客)等のなかで、子供たちは我々の想像をはるかに越える行動を見せてくれた。難しいと思うことでも、やってみなければ分からないということがあるということだろう。改めて、この機会を設けてくれた日本相撲協会をはじめ、コーディネートしていただいた関係者の皆さんに心から感謝したい。