筑波大学附属久里浜特別支援学校 Special Needs Education School for Children with Autism,University of Tsukuba

Hさんと私の小さな共有体験

 ふと立ち寄った3歳児ひよこ組の教室でのこと。

 子供たちが一人、また一人と登校してくる時間帯である。

 早く登校したHさんが、床に敷かれたマットの上に座り型はめをしていた。熱心に取り組む様子に惹かれ、近づいてマットに座った。Hさんは私を気にするようすもなく、型を枠に入れ続けている。全部入れた。するとすぐに全部取り出し、木枠の周りに並べる。全部取り出すと、また入れ始める。どの型がどこに入るのか、よく知っているようで、型を手に持つと迷いなくはめる。それでも飽きることなく、しばらく続けた。子供は、自分ができることを、自分で確かめるかのように何度も行うものだ。

 そのうち、見つめる私に気付いたようだ。Hさんのはめ込む型を見分ける視線に、私をちらっと見る視線が交じるようになった。「見られている」ことに気付いたようである。その後、何個かまた型をはめていく。

 ふと、Hさんの動きが止まり、木枠の先を見つめた。するりと伸びた手があるものをつまみ上げた。つまんだものはHさんと私の視線との間に差し出された。小さな毛糸の切れ端のようなものだった。Hさんはその小さなものを、そしてその先にいる私を見つめている。Hさんが、まるで「ほら、これ見て」と言っているようだ。私は、「小っちゃいね」とHさんに告げた。それを聞いたHさんは、にこにこしてしばらくその小さなものを見つめた。

 Hさんからの言葉はなかったが、伝えようとするHさん、Hさんが伝えたことを受け止めた私、そして伝わったと応える私、それを受け止めるHさんがいた。Hさんの発信を受け止める私と、私の発信を受け止めるHさんの間でやりとりが生まれた。コミュニケーションというものは、こうしたやりとりの中で育っていくのだろうと、改めて思った場面であった。

 Hさんは、そのことを機に型はめをやめた。そして、担任のT先生のそばに行き、棚にある絵本を取ってくれるようせがんだ。T先生が、ある絵本を手に取りHさんに見せる。Hさんが満面の笑顔になる。

 T先生は座って読んで上げるのかと思っていると、立ったまま絵本を開きHさんに見せる。Hさんは絵本とT先生を交互に見ている。T先生とHさんの目が合う。それを機にT先生が読み始める。すると、Hさんはピョンピョン跳びはね大喜び。両手を後ろに伸ばし、お尻を突き出したポーズもとる。それに応えるかのようにT先生も同じようなポーズをとる。いや少し違う。Hさんは跳びはねているが、T先生はその場で駆け足でもしているかのよう。いずれにしても二人が共鳴しながら、楽しさを増幅しているようだ。Hさんの体の表面を通して表された感情が、T先生の体に伝わっているようだ。T先生の表した感情がHさんに跳ね返っているようにも見える。共鳴ということを通して体験が共有されているようだ。

 読み進む二人の動きが止まった。T先生が少しかがんでお尻を突き出し、お尻の辺りに手をやり「プシュー」と言う。Hさんは、その様子を見て、体の動きを止め、自分もかがんで手を後ろに伸ばした。T先生と同じことをやろうとしているようだ。体の動きをまだ真似ることはできないが、自分のできる動きの中でしたつもりになっているように見えた。HさんとT先生の創る共有の世界、少しずつ広がっていくことだろう。