筑波大学附属久里浜特別支援学校 Special Needs Education School for Children with Autism,University of Tsukuba

専門性の尊重 ~障害者歯科との連携~

 冬季休業の1日、「幼児の歯科通院に関する支援」報告会を行った。数年前から継続している、本校の教員と三浦半島地域障害者歯科診療所が連携した取組を、校内で確認するために行ったものである。

 障害のある方は、一般の歯科での治療が難しいことがあるため、「障害者歯科」という分野がある。障害者歯科学会があり、この学会が認定医制度をもっている。学会のホームページには全国の認定医が開設又は勤務している歯科医院や病院が紹介されている。三浦半島地域障害者歯科診療所もその一つである。

 自閉症児は、予測できないことに強い不安をもち、無理強いすると激しい抵抗をすることがある。一般の歯科では治療の難しい自閉症児は少なくない。三浦半島地域障害者歯科診療所の対象も自閉症児が多いようである。治療が難しい自閉症児に虫歯ができてしまうと、その治療は困難を極めるようだ。体の動きを抑制することや、麻酔を使うこともあるらしい。それこそ大きな恐怖体験になるわけだ。そこで、虫歯治療に至らないよう、如何に予防するかが大切になるようだ。

 今日、報告のあった事例をいくつか紹介しよう。

 4歳のY君は、初めての場所や病院・医師・診察に対して不安があった。何をされるか分からないという不安は、強い拒否となって現れる。そこで、初診から教員が支援のため同行することにした。初診の前、学校で、予定のカードを使って見通しをもたせるようにしたり、歯科で使う器具にも慣れさせたりしたが、実際の初診では、診察室には入ったものの、椅子の上に立ったまま座ろうとはしなかったそうだ。持参した歯ブラシで歯磨きするよう促されて自分で歯磨きをしたが、歯科医の仕上げ磨きは断固拒否して口を開けず、しまいには床に寝転がってしまったそうである。2回目の通院に際し、担任のK先生は学校の椅子を持参した。するとY君はその椅子に自分から座った。しかし、歯科医が仕上げ磨きをしようとすると椅子から降りて帰ろうとした。そこで、この日は教師が仕上げ磨きするのを歯科医に見てもらった。3回目で、Y君は歯科医の仕上げ磨きを受けられるようになった。

 3歳児のNさんは、診察室には入り母親や教師に対しては口を開けたが、歯科医には開けなかった。そこで担任から歯科医に、白衣とマスクをとってもらうことは可能かと提案したところ、その歯科医は「お安い御用です」といってすぐさま私服に着替えてくれたそうである。この日、お母さんが歯磨きしている間に歯科医はNさんの口内をチェックすることができた。大きな一歩である。

 5才児のI君は、体の動きを抑制して虫歯治療をしたことがあった。治療の後、待合室から一歩も動かなくなったそうである。I君には見通しをもたせることや御褒美が有効ということで、早速、歯科衛生士のAさんは好きな絵本やブロックなどを用意した。見通しをもたせるためタブレットPCを使って絵や写真を提示したものの、I君は落ち着いて診察を受けてくれなかったそうである。担任のS先生がその場面を見て、タブレットPCによる提示より絵カードや写真カードを縦に並べ、流れを示す方が効果的なのではないかと提案した。そのツールと診察後の御褒美タイムを目あてに、今では一人で診察室に向かい予防的な治療を受けられるようになったという報告であった。

 報告を聞いて私は、この連携を支えているのはお互いの専門性に対する尊重だと感じた。今はやりの言い方だとリスペクトということになろうか。診察室や場所、姿勢の如何を問わず歯科の専門性を提供とする医療関係者は、教師のもたらす情報を理解し、その内容に柔軟に応じている。教師のもつ情報がどのようにして得られたのかに対するリスペクトがあるからだろう。一方、教師は、何とかして子供たちを救おうと時間をかけ技術を凝らす医療関係者をリスペクトしている。その情熱と献身さを目の当たりにするからであろう。リスペクトに支えられた連携は、少しずつ果実を生み出している。その果実を育んでいきたい。