筑波大学附属久里浜特別支援学校 Special Needs Education School for Children with Autism,University of Tsukuba

体験と言葉その2

 朝,職員室に行くと,幼稚部の教員がカッターをスチロール版から何かを切り出している。280615-1.pngよく見ると,「だるまさんの」(ブロンズ新社)という絵本のページをコピーし,それをスチロール版に貼り付けて,「目」や「歯」の部分をくり抜いていた。写真のような教材があっという間に出来上がった。

 その教材がどんな風に使われるのか知りたくなり,幼稚部の教室に行ってみた。早速使っている。

 この4月に入学した3歳のR君と,T先生が向かい合っている。T先生が「だるまさんの」と言いながら,左右に揺れているだるまたちの絵を指さしていくと,R君もそれは楽しそうに左右に体を揺さぶった。ちょっと間をおいて,先生が「めぇー」と言いながら,絵の下の280615-2.png部分を指さす。R君も小さな声を出し,「め」と言っているように見える。次に先生は,自分の目を指さし,「めぇー」と強調する。R君も同じように自分の目を指さす。先生は「めぇー」と言いながら,指で丸を作って目にあてたり,目じりを下げて見せたり,いろいろなしぐさをする。R君もそれを楽しそうに真似ている。次に,T先生は,R君に教材の下の部分を示し,280615-3.pngだるまの目のパーツをひょいと取り出した。取れると思っていなかったR君は目を見張った。次の瞬間,先生はその目のパーツをスチロール版の空いた所に入れ戻した。

 T先生は「R君もやってみる?」と声をかけながら,目のパーツをはずす。R君は,その大きな目のパーツを片方ずつ入れた。R君は気にいったようで目のパーツをはずしては入れる。入れている間,T先生や同じクラスのM先生が「だるまさんが」と囃してあげる。R君は目のパーツを入れたあと,「めぇー」と声を張り上げる。こんなやりとりを数回行った。すると,R君,何を思ったかプレイエリアに行ってしまった。入園して間もない3歳児の集中力は長く続かないようだ。

 だが数分もしないうちに返ってくる。280615-4.pngT先生は,別の袋を取り出して「R君,別のもあるよ」と見せた。R君は、教材をじっと見て、自分から近付いていった。どうやら今度はだるまの歯のページのようである。

 遊び方は同じ感じだが,R君はさっきより断然ノリがいい。自分から何度も「だるまさんが」と言って,280615-5.png「はぁー」と言いながら歯のパーツをはずし,また,「はぁー」と言いながら入れ戻す。そのたびにT先生とM先生は「おもしろいねー」「たのしいねー」と話しかける。繰り返すうちにR君の声は大きくなり,明瞭度を増してきた。

 T先生たちは,この絵本を楽しめるようになったR君が,全身や手を動かしながら,もっと楽しめないだろうかと考えたようである。

 楽しい体験に言葉が伴い,言葉が体験をより深くしている,そんなことを感じさせる場面であった。