筑波大学附属久里浜特別支援学校 Special Needs Education School for Children with Autism,University of Tsukuba

一人で読むんだ

 いつもならこちらが勘弁してくれといってもまとわりついてくるH君がつれない。

 幼稚部うさぎ組(年長)のH君である。ほかの子供が朝の着替えをしていたが、H君は着替えを終え床に座りこんで本を見ていた。何を見ているのだろうと近付いてみると、「仮面ライダー」の図鑑だった。その場で一緒に見ようと思い、私も座り込む。するとH君は、さっと立って教室の隅にある衝立の陰に入っていった。後ろから近付くと、同じ本を同じ格好で見ている。1ページにかける時間は長い。よく見ている。

 H君の行動は、私が彼の読書にとって邪魔だったということを意味する。そのことをS先生に話すと、S先生はにやにやして、「H君にはH君の世界があるんですよ」とのこと。そうだ、H君に相手にされないことをひがむのではなく、成長を喜ばなければならないのである。

 2年前、入学した当初から、H君は行動的だった。いろいろなことに興味をもち、しばらくの間それは彼のブームとなる。鉄砲や刀に興味を持ったときには、何度も撃たれ切られた。すっぽりとかぶって着るものに興味を持ったときには、暑い日にもかかわらずその布をかぶせられた。カバのぬいぐるみを差し出され、手に持つと頭にかぶるように促され、頭にのせると、H君はそれを指さして「かーば」と言った。彼から聞いた初めての言葉である。去年の夏、彼は虫取りにはまった。手の空いている大人も空いていない大人も虫取りに誘われた。私も2度ほどつきあった。彼に「むーし、いこ」と言われると断れなかった。

 いつも遊びの相手を探している彼にとって、何をするでもなく「ぼーっ」としている私は、格好の遊び相手に見えたようである。そのH君が、自分の世界を持ち始めている。自分の中で、深くなっていく世界に気付き始めている。

 もう成長の終わりを迎えているかもしれない私も、彼の成長の世界を追いかけるために、もう少し勉強しなければならないようだ。