筑波大学附属久里浜特別支援学校 Special Needs Education School for Children with Autism,University of Tsukuba

おんぶから向かい合う姿勢へ

 ひよこ組のI君とT先生が「おひさま文庫」にいる。しかも向き合って絵本を楽しんでいる。珍しいと思い入ってみる。I君とT先生は、「だるまさんと」という絵本を挟んで向かいあっている。I君がページを開くと、そこには果物の「いちごさん」がいくつか並んでいる。T先生は「いちごさん」と言いながら絵本の苺を一つずつ指さしていく。onbukara_1.png一呼吸おいて、I君の膝を指さしながら「いちごさんが」とまた語りかける。すると、I君がページをくくる。そこには、「いちごさん」と「だまるさん」が「ぺこっ」とお辞儀をしている絵がある。T先生は、少し甲高い声で「ぺこっ」と言う。I君は、その絵をじっと見て、手で触る。白い部分の多いページであるが、絵の部分だけを触る。顔を近づけて触り続ける。

 また、I君がページをくくる。何枚か進むと「めろんさん」と「だるまさん」のやりとりになる。そこは、「ぎゅっ」という言葉がかかれていて抱き合っている。T先生がI君を「ぎゅっ」と抱きしめようとする。その瞬間、I君は身構える。いつもの「ぎゅっ」を期待するかのように。T先生の話によれば、教室でもこの絵本を読み聞かせているので、そのイメージが残っているのだろうとのこと。

 今年4月に幼稚部に入園してきたI君は、ずっとT先生の背中にいることが多かった。何をするときでもI君はT先生におんぶされていた。onbukara_2.png初めての集団生活で不安なのかなと思ったが、泣くことはなかった。ともかくT先生におんぶされている、そんなことが続いた。移動するときはもちろん、トランポリンを跳んでいるときも、T先生がほかの子どもと遊んでいるときも。ようやくT先生の背中から降りて何かに向かっても、またすぐにT先生のところに戻ってくる。するとT先生は自らかがんでI君をおんぶする。I君に不安の色を見てとるとT先生からおんぶに誘うこともあった。

 そんな様子が、私の目に、変わってきたなと映ったのは2学期も終わりの頃だったろうか。おや、「今日はT先生の背中にI君がいないね」と、ひよこ組の先生たちと話すようになった。好きなことを見つけて、少しの時間T先生を離れることが出てきたのである。

 そして、今日は、しっかりと向き合っていた。向かい合ってやりとりをしていた。おんぶから向き合う関係にと変わってきた。おんぶは、I君にこの上ない安心感を与えたことだろう。そこが自分の居場所であり安全基地であっただろう。今、その場所を自分の意思で離れ、T先生と向かい合い、ものを媒介としてかかわりを広げている。I君はT先生との間で、「もの」について、「もの」と「ひと」の関係について様々なことを学ぶ「場」を獲得したと言えよう。さて、この関係から何が生まれてくるか楽しみである。