筑波大学附属久里浜特別支援学校 Special Needs Education School for Children with Autism,University of Tsukuba

ひよこたちの成長

 角番で小学部の子どもたちとの朝の挨拶を終え、幼稚部に向かう。

 幼稚部に向かう廊下を、満面の笑顔で走っていく女の子がいた。走っていく先には、これまた満面の笑顔で大きく手を広げて待ち構えているT先生がいた。T先生の胸に飛び込んで嬉しそうに笑うNさん、本当にかわいらしい笑顔を見せるようになった。

 去年の4月、ひよこ組(3歳児クラス)に入学してきたNさんは不安そうに当たりを見回し、当時、興味のあったボールをなかなか離せなかった。不安だったのはNさんだけではなかった。親離れできず泣き続ける子、落ち着きなく動き回る子など、どの子も新しい環境との出会いに戸惑い、もがいていた。その子たちの当時の様子を4月16日「ひよこたちの母追う声」、その後の成長を6月19日「ひよこたちのその後」として書いた。

 ひよこたちの11か月後の朝の会をのぞいてみた。

 登校後しばらくして、朝の支度を終えた子どもたちが、プレイルームで思い思いに遊んでいる。T先生が「朝の会をはじめるよ~、ひよこのお友達集まれ~」と声を掛ける。すると4人の子どもが椅子に座った。T先生の張りのある声でも絵本読みが始まった。表現力豊かな絵本読みは、私が聞いていてもわくわくする。子どもたちはこれを楽しみに集まったのである。まだ遊び足りないT君は、S先生に誘われて一緒に座った。S先生の前に抱かれ絵本読みに参加した。みんなの様子を見てR君も座った。なんと、3歳児クラスの子どもたち全員が先生の絵本読みに集まっているではないか。4月には想像すらできなかった姿である。

 名前呼びが始まる。モニター画面に子どもたちの好きな動物の絵が映し出される。子どもたちは興味津々、のぞき込むように見ている。こういう仕掛けが、彼らを引きつけているようだ。「今日は、どの動物さんにしようか」とT先生。S君が「ぞうさん」と言う。T先生「ぞうさんね、では開けようね」と言って手許のスイッチを操作する。すると、「ぞう」の顔がI君に変わった。みんなで「I君」と名前を呼ぶ。I君はT先生とハイタッチ。これで一人が終わる。その後も順番に名前呼びが進む。

 Nさんも呼ばれる。笑顔でT先生の所に行き、タッチして席に戻る。そのしぐさが愛くるしい。そう思ったのは私だけではないようだ。次に呼ばれたR君、T先生とタッチすると、Nさんのところに行きハグを仕掛ける。だがNさんは、「いや」というようによける。次のH君も名前呼びのあと、後ろにまわって抱きつくが、これもNさんに嫌われた。

 ひよこ組の子どもたちは、1年の間に好きな遊びを見つけて興味関心を広げるだけでなく、先生が提案することに楽しさを見いだす経験を重ねてきた。それが、呼びかければ集まり集団としての活動を形成している。そして、一緒に活動する周りの子どもたちにも目を向け、いろいろな感情が生まれているようである。自分とは異なる人を見つめる思いが、きっと成長へのエネルギーを生み出すことであろう。